4月22日(火)
チコは7歳。鎌倉に家が建ったときからここの住人(住犬?)だ。私が京都で働いていた頃も、エジプトで生活していたときも、ずっとここにいた。半分は土間という犬向けの間取りから、必然的に工房がチコの部屋になった。私の帰国により、長いこと住んでた部屋を追い出されたのは気の毒だが、犬にしたら贅沢すぎる部屋。甘えちゃいけない。
今年の冬はなんとなく家の中でウロウロしていたチコだが、抜け毛の季節がやってきたから大変。掃除しても、掃除しても家中毛だらけなのである。そりゃ、ものすごい量である。1シーズンで枕のひとつぐらいは作れそうな勢いだ。
結果、犬小屋を買って庭に置くことにした。父と一緒に組み立て、苦労して完成させたのに近づこうともしない。餌を中に置いたり、『ホーム!』と怒鳴ってみたところで知らんぷりだ。無理矢理押し込もうとしたら、ますます怖がってどうにもならなくなってしまった。さぁ、どうしたものか。結局私が中に入り、安全なことを示すことに。入り口で腰を打ち、手は泥だらけ。やっとの思いで中に入りチコを呼び込む。恐る恐る入ってきて、身をすり寄せるようにして丸くなった。突然、チャーリーブラウンのことを思いだした。悩み事があると、スヌーピーの小屋に入ってしまうチャーリー少年。確かに落ち着ける場所である。この閉塞感が妙に心地よい。いやいや、母胎回帰願望などと言われる前に外に出なければ。極度の甘えたがりやを小屋に残して。


4月17日(木)
愛犬チコが散歩中に首輪を落としてきた。普段、リードなしで散歩しているチコだから、首輪をなくした事に気が付かなかった。それにしてもどうやったら首輪が外れるのだろうか?まぁ考えても出てくる訳じゃないし、とりあえずチコと町内を一周することに。普段は朝と夜しか散歩はしないので、日中の暖かい中をのんびり歩くのは久しぶり。首輪のことを忘れて、土手に咲く春の花に心を奪われてしまった。プロペラみたいなツルニチニチソウ。小さなオオイヌノフグリ、ムラサキサギゴケ、、、。私は春の、特に青い花が好きだ。寒い冬が終わり、ぬるい空気が身体にまとわりついてくると、黄色や桃色の花より爽やかな青い花に新鮮なときめきを感じるのだ。空き地に群生していたシャガを一輪、拝借してくる。アヤメやカキツバタのような主張がないこの薄紫の花、なかなか味わい深いと思う。家に帰り、こないだ窯出ししたばかりの花器に挿してみる。うん、風流。オレとオマエ、脇役同士で好相性。もしビッグな作家になっても、野の花を優しく受け止められるような花器が作れる人間でいるから安心しな。ビッグな作家?何だろう、それ。
夕方、近所のおばさんが首輪を届けてくれた。名前も書いてないのに良くわかったなぁ、と思って聞いてみると、オレがチコに歩きながら話しているのが耳に入ったらしい。平日の昼間に大声で犬と話しをしている30代後半の男。職業不詳。やれやれである。


4月12日(土)
初物のそら豆を食べた。
他のマメにはない独特の味と香り。そして堂々としたルックスは豆の王様と呼ぶにふさわしい。そら豆は高いから、枝豆みたいにぱかぱか食べたら叱られたもんである。丁寧に皮を剥き、じっと見つめ合ってからやうやうしく頂くのが流儀。春の訪れを感じる一品。
エジプト人は豆が大好き。日本人にとっての納豆以上に親しまれている朝食『フール』がなければ1日はスタートしない。茶色い豆を煮込んでペーストにしたものをアエーシュ(素朴な平たいパン)に挟んで食べる。もう一つの雄『ターメイヤ』は粗く潰した緑の豆をコロッケみたいに揚げたもの。ゴマのペーストやサラダと一緒に、これまたアエーシュに挟んでかぶりつく。
エジプトのローカルファーストフード店には目移りするくらいのおかずが並んでいる。どれもアエーシュに挟んで食べるのだが『フール』『ターメイヤ』は別格だ。客の注文に耳を凝らして聞いていると『ワヒドワヒド』としか言っていない事に気付く。ワヒドは『1』の意味だから『1個と1個』と注文しているだけ。『フールサンド1個とターメイヤサンド1個』はここまで略しても通用するのだ。吉野屋の『並』どころの話じゃない。『食べ過ぎたら脳味噌が溶けるよ』なんて冗談が出るくらい、彼らはこのジャンキーな豆料理を愛している。
『フール』と『ターメイヤ』がそら豆だと知ったのは、エジプトでかなりの時間を過ごしてからだった。高級なそら豆がここまで大衆化していることに驚いて、もったいない気がしたけど、エジプトはさかさまの国。もっと不思議な日常に紛れて、そんな気持ちは何処かへ行ってしまった。


4月04日(金)
3日後にタンザニアへ旅立チクと花見をしてきた。
私の両親は小学校の同級生、東京は墨田区の出身だ。車が通れないような路地がごちゃごちゃと続く東向島はジオラマみたいで面白い街。下町の中の下町である。私の出身は茅ヶ崎だが、カラダは純血の江戸っ子だと思っている。そしてそのオゴリのせいか、私は本当に東京のことを知らない。
彼女に連れていってもらった代々木公園は新宿から歩いてすぐだった。鬱蒼とした明治神宮を抜けるとなだらかな芝生の丘と歴史を感じる木々、静かなたたずまいの池などがバランス良くレイアウトされた都会のオアシスが現れた。森の向こうに高層ビルがそびえ立っている。これは映画で観たニューヨークのセントラルパークそっくりである。こんなに素晴らしい、広大な敷地に人は殆どいない。私たちは満開の桜の木を独占してお弁当を広げた。なんという静寂。なんという贅沢。これが東京なのか?
外国も楽しいけど、まだまだ日本も見るべき所がいっぱいある。とりあえず東京。彼女が帰国したら、今度は私が素敵な東京を案内しよう。気をつけて、行ってらっしゃい。

4月03日(木)
窯が壊れてしまった。還元の吹き出し口に付いているリングが取れてしまったのだ。窯は過酷な使用を想定した消耗品だから、この程度のことは日常茶飯事である。が、まだ1回しか本焼きしてないうちからこれでは先が思いやられてしまう。早速、東京陶芸機材に電話して修理に来てもらう。
気の優しい社長の息子が来てくれた。『こりゃ珍しいケースですねぇ。』なんて呑気なこと言っている。高い買い物なんだ、ちゃんと直してくれよぅ、、、祈るような気持ちで見守る。別のリングで代用してビス止め。その後、大層にもアーク溶接で固定までしてくれた。耐熱スプレーで仕上げて出来上がり。見栄えはちょこっと悪くなったが、なんだかタフな雰囲気に変身。具合の悪かったサーモカップルも交換して、これでまた窯が焚ける!さ、どんどん作らなきゃ!