8月27日(水)
サトシトミイエが帰国中である。
弟のアツシと3人、渋谷の寿司屋で合流。エジプト以来の再会で大いに盛り上がった。気持ちよく、自分らしく生きている人間に会うのは楽しい。キツイ仕事に追われる毎日のオアシスである。
2日前はロンドンのクラブでDJをしていたサトシトミイエから手紙を受け取る。ロンドンにいるチクから預かった手紙だ。メールをリアルタイムにやりとりできる現在、外国はどこも近くなった。切手を貼ってポストに入れることさえ十分にノスタルジックな行為だけど、知人に手紙を預けるのは、なおロマンティック。懐かしい筆跡で書かれた手紙は、濁りのない文章で心が温まる。
夜中に連れていってもらったbarで、DJ木村コウを紹介してもらう。60年前のハーレーに乗ってやって来たコウもまた、迷いのない素敵な笑顔の男である。自分らしい生き方を貫きたい、と思わせる人間達と過ごす時間は自分へのエネルギー。ジャンルは全く違うけど、次に会うときも刺激を与え合える関係でいたい。また『一蘭』でラーメン食べよう!今度は替え玉するよ、オレも。


8月25日(月)
永田町にある首相官邸へ行ってきた。
今年、文化・芸術に貢献した若者を一堂に招待して、その功績を労う会・・・というのはもちろん冗談。帰国したJOCV隊員が招待されて、首相と懇談するという会にたまたま呼ばれただけである。JICAの理事長に、初めて外務省の天下りじゃない人が就任するらしい。前国連難民高等弁務官の緒方貞子氏である。外務大臣のポストを辞退した彼女が、である。こんなタイミングにも合わせた懇談会だったのかも知れない。とにかく、首相官邸でお食事なんて滅多にないチャンス!炎天下の東京に赤いスーツを着て出かけてきた。
広尾のカフェで友人のユタカと待ち合わせる。ニンジンジュースなどをちびちびと飲みながら話をしていたのだが、あまりの暑さに、エアコンの効いている店内でさえ汗ばむくらい。私たちは、カウンターに並ぶビールボトルから目が離せない。『ま、ちょっとだけなら』のかけ声と共に冷えたビールを注文する。ほんのりと赤い顔で首相官邸へ!
会場には小泉首相をはじめ、川口外相、福田官房長官などなど、オレでも知っている政治家がずらりと並び、これまた凄い数のカメラマンや記者が集まっていて、なんだかワイドショーで見る記者会見みたいな雰囲気。皆と雑談して、写真を撮ってと会は和やかに進み、誰も大切な話など出来ずにおひらきの時間。振り返ればただのショウタイムである。ま、いっか。
それにしても職人が目の前で握ってくれた寿司、揚げたての天ぷら、殻に入った生ウニのサラダ、霜降りのローストビーフ、鮑とイクラのオードブル・・・美味かったなぁ。


8月19日(火)
アフリカのザンビアで料理の指導をしていたオキダテは二本松訓練所の盟友だ。同期の恋人、カナがジョルダンから帰国して、2人は一緒になった。誰もが羨む美男美女のカップルである。
遠距離恋愛は慣れっこの二人だとは思うが、端から見ていて心配するくらい、いつも離ればなれ。現在ミャンマーにある日本大使公邸の料理人であるオキダテは、国内情勢が落ち着くまで帰国できそうにない。アウンサンスーチー女史の安否を、別の理由からも気にしている毎日。
そんな2人に女の子が生まれた。名前を仁奈(にな)という。出産当日、駆けつけた産婦人科病院を見て記憶をたどる。茅ヶ崎の住宅街の中に建つこの病院、弟が生まれた病院である。30年前の通学路だったこの辺りには昔のままの建物も残っていて、幼少時代の思い出が鮮明に甦ってきた。仁奈も私と同じ西浜小学校へ通うんだろうか?始まったばかりの彼女の人生を想像しながら、いままでの自分を振り返る。
出産祝いのお返しに、と注文してくれた作品が焼き上がった。器にアラビア語で『にな』と書かれている。ジョルダンで暮らしていたカナにとっても思い出深い文字だろう。仁奈本人が読めるようになるのは、いつの日か?(永遠に来ない確率の方が高い?)


8月11日(月)
岩手に行ってきた。帰国してから10ヶ月、待ちに待った渓流釣りだ。
川でイワナ・ヤマメを狙うには、大別して3つの方法がある。餌釣り、毛針(フライ)、そしてルアーである。上流域に限って言えば、ルアーを使う人はごく少ない。全体の5%もいないだろう。流れが速く泳がすことが難しいうえ、魚の活性に大きく左右されてしまうからだ。餌釣りやフライが食欲に訴えているのに対し、ルアーは魚の好奇心、闘争心で誘い出す。天気や水温、渓相に合わせてルアーの色、形を替えていき、糸を巻きながら小さく踊らせる。誘惑に負けた魚が、たまらず飛びつくところを想像しながら。
シュウが下調べ済み、という川は何故か魚の気配がない。初日でキャストコントロールがイマイチだったせいもあるが、それにしても釣れそうな予感がしない。上流から降りてきた釣師のオッチャンも『コンチキしょう、今日はダメだぁ』なんて言っている。水温が上がりすぎたのも原因かもしれない。あの振動を味わいたくて、はるばる岩手までやって来たのに。無理してでも7月中に来るべきだったのかなぁ・・・。
3日目、思い切って川を変更する。雫石から宮古方面へとスイッチ。これがピタリと当たる。ウェイダーを履いて藪をかき分け流れに近づき静かにキャスト。そしてヒット!小型だが宝石のように美しいヤマメが姿を見せてくれた。日暮れまでに3匹のヤマメを上げ、満足して引き上げようとしたその時、鋭い当たりが竿先に伝わる。暗くなってルアーを目で追えなくなったため取り替えた、5グラムのスプーンにヒットしたのだ。魚は一気に下流へ走り、針を外そうとジャンプを繰り返す。瀬に入られドラッグは鳴き続ける。5分後、ついに観念した美しい斑点の尺イワナが私の手の中に入った。
露天風呂に入りながら感動を噛みしめる。恋愛と渓流釣りほど楽しいことを、私は他に知らない。

8月03日(日)
関東地方の梅雨が明けた。4年ぶりの蝉時雨。日本の夏は風情があっていい。
鎌倉駅から由比ヶ浜に向かって、女の子達が歩いていく。長い生足にサンダル、タンクトップ。日本の夏である。イスラム教の国、エジプトでこんな女性に会うことは少ない。ドイツやイタリアからやって来たおばさん達も短パンにタンクトップだが・・・どちらかというと目を背けたくなるような霜降りレディ。ちょっと違うかもしれない。
工房からスクーターに乗って10分で湘南の海だ。いつでも行けるけど、なかなか行けない。年中日曜日で年中仕事日。天気がいいから、と泳ぎに行くほどの仕事をしていない引け目がある。仕方なく、はかどらない仕事をのろのろとするのだ。
私の代わりに気持ちよく泳いでいたのは携帯電話。脱水の終わった洗濯機から服を出していたら、底に無言で横たわっていた。そして買い替えた携帯電話は防水仕様。水に浮くのが自慢なだけあってやたらとデカイ。まるでコードレス子機みたい。真夏の夜、布団の中で携帯のアドレス帳にデータを打ち込む毎日。いつの間にか握りしめたまま眠りにつく。デカイけど、妙に握り心地のいい電話機なのだ。