09月28日(火)
その浅間山が目の前にある北御牧村に行ってきた。5年振りに水上勉先生の家に入る。
今日、東京で行われたお別れ会までの間、1人で遺骨を守らなきゃならないスミさんに呼ばれて長野新幹線に乗った。著名人の骨壺や看板を狙う窃盗団、香典専門の強盗・・・世の中には鼻の利く悪人がウヨウヨしているのだ。頼りない用心棒だけど、1人より2人の方がマシ。オレは先生が愛用していた杖を振り回して非常事態に備える・・・いざという時には、慌てて逃げ出すだけなんだけど。
先生に可愛がられていた3匹の犬と一緒に、書斎の横にあるソファベッドで眠る。雑然と積み重ねられた無数の本から、この世にいないはずの、先生の気配を感じて落ち着かない。威圧的でもなければ怖い訳でもない。静かに、自分の無能さを露呈されていくようなそんな感じ。
物を創り出すこと、それは人に何かを伝える仕事。夏の暑さのせいにしていたけど、今年はずっと迷い続けて仕事をサボった。自分のやるべき事がわからなくて苦しんだ。オレは生きるために陶器を作っているだけなのか?もっと別の、大きな力に動かされている?
遺影の水上先生は口を横一文字に閉じて、伏目がちに遠くを見ている。でも、笑っている。男前で隙のない優しい顔。先生からの最後の贈り物だから、自分のダメさをしっかり刻んで鎌倉に帰ります。ダメなことがわかっているなら、また前に進めるから。
完全な虹を見た。黄金色の稲が揺れるあの場所に始まり、右手に見える古い小屋の後ろに突き刺さっていた。あまりに鮮やかで、シャツを濡らす冷たい雨に気が付かなかった。この虹を見るだけでも生きる意味はある。手を止めるから色々考えちゃう。つまり、そうゆう事だ。


09月15日(水)
浅間山が21年ぶりに噴火してから2週間。未だに小規模な活動が続いている。山が噴火すると、その時期だけ必ずコラムに登場する名前がある。古代ローマ時代の博物学者、プリニウスだ。『フニクリフニクラ』の歌でも有名なイタリア・ベスビオ山大噴火に近づき過ぎて命を落とした彼を、理想的な最期と羨む人も多い。好奇心の追求は命の価値さえ軽くなる?
池澤夏樹氏の著書『真昼のプリニウス』の中に、1783年に多数の死者を出した天明の浅間焼けの事が出てくる。その時の様子を生々しく語った文章(どこまで創作なんだろうか?)が秀逸で、火山の恐ろしさ、想像とはかけ離れたスピード感など新鮮な驚きに満ちている。200年後、小説に出てくる火山学者の女性(主人公)は、噴火を予言された日に浅間山頂へと1人向かうのだが・・・。地震のシステムを理解しやすい地殻構造(プレート・テクトニクス)にも触れていて、とても面白く読み応えのある小説。オススメですよ。
その人らしい最期と言えば、酔っぱらって階段から転げ落ちて死んだ中島らも氏。私の考えるところの「モラル」を持っていた希な人だっただけに残念だけど。でもまぁ、やっぱり羨ましい気もする?享年52歳。


09月11日(土)
一昨日、インドネシアの首都ジャカルタで200人近い死傷者出した爆弾テロがあった。辺りのガラスは爆風で全て割れ、上空にはキノコ雲が出来るほどの大爆発だったらしい。翌日、そのジャカルタへ向かいチクが成田を発った。同じ失敗はしたくないので、私は自宅から北東の空を見上げ2年間の無事を願う。
3年前の今日、9月11日も私はカイロに住んでいた。タクシーの運転手が興奮気味に「マルカッズ・イットガーリィ(World Trede Center)に飛行機が突っ込んだ!」なんて話していても、映画か冗談だと思っていた。私たちに用意された日本への片道チケットはエジプト人との突然の別れを意味していたし、歓喜と不安の入り交じった街の空気は、私のバランスをも狂わせた。現在の日本では体感できない、世界の揺れである。
チクは知っている。危険と思われる場所の穏やかさと、安全と思われる場所が持つ油断を。彼女が機内で考えていたこと、それは治安の事でも2年間の遠距離恋愛の不安でもない。今晩、屋台で食べるミーゴレンの事だけ!・・・無事着いたなら連絡ちょうだいね、そろそろ。


09月8日(水)
作家の水上勉先生が亡くなった。
離婚して間もない頃、水上家にある電脳教室(パソコンルーム)で2週間ほど暮らしたことがある。晩秋の北御牧村は寒く、広い部屋に1人、薪ストーブの炎を見ながら眠った夜は昨日の事のようだ。長期連載の最終原稿を書き上げた夜、編集者たちとの打ち上げパーティに混ぜてもらい、知的で暖かい会話と最高のシャンパン (KRUG) を堪能したのは懐かしい思い出。あんなに元気だったのに・・・。離婚という結果に苦しんでいるオレに『自分ではどうにも出来ない事でも、自分の歩んだ道を信じるのがいい。』と言ってくれた水上先生の優しい顔が思い出される。先生、天国にはイイ女が沢山いるらしいですよ!休んでる暇がないくらい、楽しいところでありますように。